夢枕獏(作)×谷口ジロー(画)の傑作漫画を映画化した『神々の山嶺』がいよいよ7月8日(金)から公開されるのを前に、原作の生みの親である作家・夢枕獏と、故・谷口ジローを師と仰ぐ漫画家・寺田克也による特別対談が実現した。
本作は、「登山家マロリーはエベレスト初登頂に成功したのか?」という登山史上最大の謎をめぐる、孤高のクライマー・羽生と彼を追うカメラマン・深町の物語。フランスのアカデミー賞に当たるセザール賞で見事アニメーション映画賞を受賞。同国で大ヒットを記録し今回、ついに堂々日本凱旋上映。公開にあたり堀内賢雄、大塚明夫、逢坂良太、今井麻美といった日本を代表する豪華声優陣が吹き替えを務め世界初のアニメ版に息吹を吹き込んだ。
今回実現したのは「神々の山嶺」の生みの親である作家・夢枕獏と、故・谷口ジローの遺志を継ぐ漫画家・寺田克也による豪華対談。映画『神々の山嶺』についての感想や、故・谷口ジローへの思いを語り合った。
『神々の山嶺』は7月8日(金)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開。
夢枕獏(作家)×寺田克也(漫画家)対談
寺田「アニメ版『神々の山嶺』を観たオレの第一印象は、山が主役の究極の山アニメだ、ということでした。オレは、山とは縁遠い人間なんです。登山歴と言っても、高尾山くらい(笑)。そんなオレにも、高いところまで登るとこんな感じなのか、という空気感がひしひしと伝わってきました」
夢枕「原作者として僕が驚いたのは、そもそもアニメの原作に「神々の山嶺」をチョイスしたということです。日本ではありえないことですよ。フランスだから成立したんだろうなあ。一番大きいのは「神々の山嶺」をマンガ化した谷口ジローさんが、フランスでものすごく有名なマンガ家だからですよね。もうひとつは、フランスにはヨーロッパ・アルプスで一番標高が高いモンブランがあって、登山文化が国民の中に根付いていることだと思います」
寺田「マンガと登山の愛好者がいるということですね」
夢枕「そうです。もうひとつ驚いたのは、このアニメの中にフランス人がひとりも出てこないのです。普通なら自国人をひとりくらいは入れたくなるものなんですけどね。しかも、日本の風景描写が完璧でした。よくあそこまで取材したなあ。谷口さんの原作へのリスペクトが強かったんだろうなあ」
寺田「実は、岡山から東京に出てきてオレが最初に知り合ったマンガ家が谷口さんでした。描いたものを持っていったら真剣に見てくれて、なんの実績もない若造をひとりの同業者として扱ってくださった。なんと懐の深い人なんだろう、と感激しました。それ以来、勝手に弟子と称してずっとお付き合いさせてもらっていました」
夢枕「僕はマンガ化に関しては非常に恵まれた作家だと思うんです。「神々の山嶺」を谷口さんにお願いしてよかったのは、(漫画版の)ラストシーンでマロリーがエベレストの山頂で見せるいい笑顔を描いてくれたことです。僕は、登頂に成功したのかどうかを最後までぼかして書いたのだけど、谷口さんは『ラストを変えて、マロリーが登頂に成功した場面を描きたい』と言ってくれた。心の中のモヤモヤが晴れたような気分でした。僕の中にも登頂を成功させてあげたかった、という思いがありましたから」
寺田「そこが谷口さんの人間性ですよね。優しい。そして、作品に向き合う時は芯が強い。妥協がないのですね。原画を見ると、一見繊細な絵だけど線は強い。作品と真摯に向き合って描き抜くというか……。だからこそ、海外でも受け入れられたと思います。とてもオレには真似できないですね」
夢枕「小説でも力を抜くところはあるんです。だけど、谷口さんはどのシーンでも力を抜かない。力を抜く場合でも全力で力を抜く」
寺田「ご本人はずいぶん前から、私は描きすぎるから、とおっしゃって、ひとりで描ける作品世界をつくろうとされていました。晩年には薄墨を使った絵も描いていた。ずっと自分の絵を模索してきていた人ですよね。一人のファンとして、もう少し長生きしてもらって完成形を見たかったです」
夢枕「あと10年は描いてほしかったなあ」
寺田「同感です。アニメを観た方が、まだ原作を読んでいないのなら、獏さんの小説と谷口さんのマンガの両方を読んで、おふたりの世界に触れてほしいと思います」
夢枕「僕は、このアニメが成功して、日本のアニメ関係者の考えが変わるといいなと考えています。小説でもマンガでも、ほかにもいっぱい原作になるいいものがあるじゃないですか。そこに気づいてもらえたら、日本のアニメの裾野も広がると思うんですよ」
2022年5月26日収録/取材・構成:中野晴行(漫画評論家)
※この対談のロングバージョンは、劇場版パンフレットに収録される。
寺田克也 Katsuya Terada
1963年、岡山県出身。漫画家、イラストレーター。マンガ、小説挿絵、ゲーム、アニメのキャラクターデザインなど幅広い分野で活動する。代表作に漫画「西遊奇伝大猿王」、「ラクダが笑う」、画集「寺田克也全部」などがあるほか、「バーチャファイター」シリーズ、「BUSIN」のゲームキャラクターデザイン、「ヤッターマン」のメカニックデザイン、「仮面ライダーW」のクリーチャーデザインなどを担当。
夢枕獏 Baku Yumemakura
1951年、神奈川県出身。1977年に作家デビュー。以後、「キマイラ」「サイコダイバー」「闇狩り師」「餓狼伝」「大帝の剣」「陰陽師」などのシリーズ作品を発表。1989年「上弦の月を喰べる獅子」で日本SF大賞、1998年「神々の山嶺」で柴田錬三郎賞を受賞。2011年「大江戸釣客伝」で泉鏡花文学賞と舟橋聖一文学賞を受賞。同作で2012年に吉川英治文学賞を受賞。2017年菊池寛賞受賞、2018年紫綬褒章受章。
神々の山嶺
2022年7月8日(金)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開
STORY
「登山家マロリーがエベレスト初登頂を成し遂げたかもしれない」といういまだ未解決の謎。その謎が解明されれば歴史が変わることになる。カメラマンの深町誠はネパールで、何年も前に消息を絶った孤高のクライマー・羽生丈二が、マロリーの遺品と思われるカメラを手に去っていく姿を目撃。深町は、羽生を見つけ出しマロリーの謎を突き止めようと、羽生の人生の軌跡を追い始める。やがて二人の運命は交差し、不可能とされる冬季エベレスト南西壁無酸素単独登頂に挑むこととなる。
監督: パトリック・インバート
原作:「神々の山嶺」作・夢枕獏 画・谷口ジロー(集英社刊)
日本語吹き替えキャスト:堀内賢雄 大塚明夫 逢坂良太 今井麻美
2021年/94分/フランス、ルクセンブルク/仏語/1.85ビスタ/5.1ch/原題:LE SOMMET DES DIEUX /吹替翻訳:光瀬憲子
配給:ロングライド、東京テアトル
© Le Sommet des Dieux - 2021 / Julianne Films / Folivari / Mélusine Productions / France 3 Cinéma / Aura Cinéma
公式サイト longride.jp/kamigami/
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