30代女性に訪れた“ひと夏の奇跡”を描く『セイント・フランシス』(8月19日公開)の特別先⾏試写会トークイベントが8月4日(木)に開催され、本作の主演&脚本を務めたケリー・オサリヴァンが作家の⼭内マリコと海を越えたトークを繰り広げた。
本作は34歳独身、大学を1年で中退し、レストランの給仕として働くブリジット(ケリー・オサリヴァン)の物語。うだつのあがらない日々を過ごすブリジットの人生に、ナニー先の6歳の少女フランシスや、その両親であるレズビアンカップルとの出会いで、少しずつ変化の光が差してくる――。グレタ・ガーウィグに続く才能と絶賛される注目クリエイター、ケリー・オサリヴァンが主演・初脚本を務めた本作は、これまでタブー視されることの多かった、女性の生理、避妊、中絶、妊娠、産後うつに育児ストレスなど、その身体にのしかかる様々な負担や精神的プレッシャー、セクシャルマイノリティーの人々が直面する社会的な差別といったリアルをユーモアと軽やかさをもって見事なバランスで描いている。
今回開催されたトークイベントにオンライン登壇したケリー・オサリヴァンは「主⼈公との共通点は本当にたくさんある」といい、本作の主⼈公ブリジットと同じく「実際にナニーを経験したということ、そして中絶を経験した」という。そんなこれまでの⼈⽣における2つの⼤きな出来事を映画にする上である程度は誇張しつつも「⾮常にリアルな真実味を持ってこの作品に取り組むことができた」と明かす。
アメリカの名⾨校(ノースウエスタン⼤学)のクリエイティブ・ライティングプログラムに1年だけ通っていたというブリジットの“秀才”キャラクター設定について⾔及した⼭内は「そこで彼⼥はネクスト“シルヴィア・プラス(アメリカの⼥流詩⼈)”と同級⽣から⾔われていたという設定ですが、でもこの夏彼⼥はずっとハリー・ポッターを読んでいるっていう設定が、すごくギャップがあって⾯⽩いなと思いました」と⾔及。
そのことについてケリーは「(ハリー・ポッターは)実は当時、本作の脚本を書きながら私が読んでいたんです。だから登場するのがハリー・ポッターだったんです(笑)」と述べ、しかし「ブリジットにとっては、⼦供の感情に戻るというひと夏だった、ということをある意味⽰していますね。確かにブリジットは、シルヴィア・プラスであったり、ある意味で詩といった“⾼尚”と⾔われるものを読んでいたけれど、でもそういったものが、劣るのかというともちろんそうではなく、同様に深みのあるものだと思います。ですからこの夏は、ブリジットにとって社会が、ある意味レッテルを貼るというか、これは⾼尚なものだとか、これが成功だとか決めつけたものから少し外れて考えるというための夏だったのかな」と語った。
ブリジットの親友が電話でしか登場しないことにも⼭内は着⽬。「本作は、ブリジットとフランシスの物語ですが、この2⼈を結びつける親友のダナが、スクリーンには⼀度も登場しない。ブリジットの親友ですよね? ダナが登場しないことに何か意味があるのかな?と思いました」と伝えると、ケリーは「ダナを出さなかったというのは、ブリジットがいかに孤⽴しているのかというのを⾒せたかったため」だと明かした。「だからブリジットが中絶をしたということは、ダナを含め誰にも相談はしていないです。友達の多くが、⼦育てや仕事など彼⼥と別の次元にいて忙しいわけですよね」とリアルな現実を描写したという。
「最初はダナもブリジットをサポートしてナニーになるように、紹介はしてはくれるものの、その後は⾃分の⼦育てて忙しくて構えないのです。だから、ブリジットは頼れる⼈が誰もいない」といい、だからこそ「彼⼥がナニーとして関わることになるフランシスの家族に深く結びつくことができる、とも⾔えます」とその意図を語った。
⼭内は「ブリジットが中学⽣までカトリックだったということと、でも彼⼥が当たり前のように中絶を選択するということについて、そこにこめた想いなどを聞かせてください」と、劇中に登場する中絶シーンについても質問。
ケリーは「私は幼稚園から14歳くらいまでアイルランド系のカトリックの学校に通っていました。ただ、私は聖⺟マリアの処⼥受胎を信じていたかというと、そういうわけではないです。ですからこの作品を通してずっとカトリックというものが影のようについて回って存在してるんですよね。カトリックではもちろん中絶は罪と⾔われ、⼤罪なわけですよね。でもブリジットはそういう背景を持っていても、今はもう信じていない」と回答。
反して、ナニー先の家族であるマヤはカトリックを信じて⾮常に愛着を持っているため「この2⼈の関係を通じて、その宗教観というものが明らかになり、ブリジットは⼤⼈になるにつれ中絶は罪という気持ちを持ちながらも現実的な⼈⽣の選択というものを考え、あと知的レベルではそれは罪ではないと分かっていても、どこか⼼の奥底にある⾃分と向き合わなければという部分があった」と思い返した。
最後に⽇本の観客に向けて「来てくださってありがとう! 今⽇のディスカッションを楽しみました」と⽇本の観客に向けてメッセージを送ったケリー。「⼼の中で何度もスタンディングオベーションを送りました」「⼥⼦のリアルがこんなにも⾃然に詰まった映画は、ちょっと他にない」と本作に絶賛の声を送る⼭内マリコと共に本⾳で語った貴重な機会となった。
『セイント・フランシス』は8月19日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、シネクイントほか全国ロードショー。
セイント・フランシス
2022年8月19日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、シネクイントほか全国ロードショー
監督:アレックス・トンプソン
脚本:ケリー・オサリヴァン
出演:ケリー・オサリヴァン、ラモナ・エディス・ウィリアムズ、チャーリン・アルヴァレス、マックス・リプシッツ、リリー・モジェク
2019年/アメリカ映画/英語/101分/スコープサイズ/5.1chデジタル/カラー
原題:Saint Frances
字幕翻訳:山田龍
配給:ハーク
©2019 SAINT FRANCES LLC ALL RIGHTS RESERVED
公式サイト www.hark3.com/frances/
この記事が気に入ったらフォローしよう
最新情報をお届けします
Twitterでフォローしよう
Follow WEEKEND CINEMA