1994年生まれの新たな才能エリ・グラップ監督が革命真っ只中のウクライナを描き、第74回カンヌ国際映画祭でSACD賞を受賞した『オルガの翼』(9月3日公開)で主演を務めたアナスタシア・ブジャシキナからメッセージ動画が到着した。あわせて本作への奈良美智、沼野恭子、廣瀬陽子ら著名人の推薦コメントが解禁された。
本作はウクライナで起きた市民運動「ユーロマイダン革命」を背景に、運命に翻弄されるウクライナ人体操選手のオルガを描く物語。「ユーロマイダン革命」とは2013年11月に首都キーウにある独立広場に市民が集まり出したことをきっかけにした市民運動で、2014年2月に親ロシア派のヤヌコーヴィチ大統領の追放へとつながった。革命の結果、東部2州は独立を「宣言」し、2022年2月にロシア軍が侵攻することになった。
ロシアがウクライナ侵攻を開始する9年前、2013年、ユーロマイダン革命直前のキーウ。欧州選手権出場を目指しトレーニングに励む15歳の体操選手オルガは、ヤヌコーヴィチ大統領の汚職を追及するジャーナリストの母と共に何者かに命を狙われる。身の安全のためウクライナを離れたオルガは、父の故郷スイスのナショナル・チームに。SNSを通じ、変わり果てた街や家族・友人が傷つく姿を遠くから見るしかないオルガ。しかし彼女も欧州選手権出場のため、ウクライナの市民権を手放さなければならず―。
このたび解禁されたメッセージ動画で主演のアナスタシア・ブジャシキナは「日本での公開が決まって嬉しい。みなさんの頭上に平安があり目的を失って諦めることなくまっすぐ進めますように。人生はどんなことでも可能です。大事なことは、ひとりではなく、いつも助けてくれる友人や家族の支えを得て進むこと」と語る。
ウクライナ人である彼女は、2月のウクライナ侵攻で危険が及び、現在、映画のヒロインと同じく、スイスに避難している。スイスに避難する際に、『オルガの翼』の撮影スタッフたちに助けられたことから、このようなメッセージをわたしたちに伝えている。
また、本作をいち早く鑑賞した著名人からコメントが到着した。美術家の奈良美智は「彼女を自分に置き換えることができるなら、誰もが飛び立つ勇気を感じることだろう」と主人公への共感を示し、ロシア政治の専門家である慶応義塾大学・総合政策学部、廣瀬陽子教授は「ウクライナ理解に必須の、世界が向き合うべき問題作」と今必見の作品であることを強調。
さらに、前東京国際映画祭ディレクターの矢田部吉彦は「長編第1作という事実に驚くしかない」と1994年生まれのグラップ監督の才能を絶賛し、「戦争は女の顔をしていない」コミック版の監修を担当した漫画家、速水螺旋人は「主演のアナスタシア・ブジャシキナに圧倒される。俳優ではないのに」と、撮影当時本物の体操選手であったブジャシキナを激賞。その他、青木眞弥、岡島尚志、梶山祐治、澤田智恵、沼野恭子、望月優大がコメントを寄せている。コメント全文・一覧は以下にて。
また、9月3日(土)から上映が始まる渋谷のユーロスペースでは、映画上映後にトークイベントも開催予定。ゲストは以下の通り。
9月3日(土)エリ・グラップ監督(スイスよりオンラインで参加)
9月4日(日)矢田部吉彦(前東京国際映画祭ディレクター)
9月10日(土)沼野恭子(東京外国語大学教授・ロシア文学)
9月11日(日)梶山祐治(本作字幕監修、ロシア・中央アジア映画研究者)
9月18日(日)廣瀬陽子(慶應義塾大学 総合政策学部 教授)。
※詳細は決まり次第、映画公式Twitter、ユーロスペースHPで発表。
『オルガの翼』は9月3日(土)渋谷ユーロスペースほか全国順次公開。
コメント一覧 敬称略・五十音順
2013年の<ユーロマイダン革命>を背景に描くこの映画は、2022年の今日、ウクライナへのロシアによる侵攻がなぜ起こったのかを、どんなニュース映像や解説よりも明らかにしてくれる。翼を得たオルガが未来へ飛び立ち、いつか笑顔を手に入れる日が来ることを祈らずにはいられない。
青木眞弥(「キネマ旬報」前編集長)
ウクライナについて、私たちは何も知らない。それを痛感させる衝撃のドラマが、『オルガの翼』だ。体操選手の少女オルガが、技に挑む時、鉄棒が発する軋みの音が、引き裂かれた彼女の祖国への思いを叫びのように代弁する。今起きているあの戦争を遡って理解するためにも最適かつ必見の映画だ。
岡島尚志(映画評論家)
2014年2月、世間がソチ五輪に夢中な時、ウクライナでは革命が起きていた。スイスに住むオルガの親戚さえ他人事で、その後ドンバスでは戦いが続いた。世界がもっと関心を持っていれば、今とは違う2022年があっただろう。
梶山祐治(本作字幕監修、ロシア・中央アジア映画研究者)
痛みを知る者だけが有する惜しみない優しさに溢れるウクライナの民と、その千年の歴史の一片を、オルガの運命と葛藤の日々を通して描く本作品は、苦悩の闇夜で希望の灯(ひ)を歌うが為の選択肢を問うている。
澤田智恵(ヴァイオリニスト・日本ウクライナ芸術協会代表)
自我を不安に落とし入れるのは、自我を形成してくれたそのものたちだ。それらは常に発展途上であって、それゆえに自我形成も途上にあり、一瞬すべてが宙ぶらりんになることは多々あるのだ。そこから落ちるか飛び立つか、オルガは飛び上がり、迷いなく着地した。彼女を自分に置き換えることができるなら、誰もが飛び立つ勇気を感じることだろう。
奈良美智(美術家)
母の国ウクライナの「革命」と、父の国スイスの体操ナショナルチームとの間で、引き裂かれる15歳のオルガ。物語が加速していき、キーウの広場(マイダン)とオルガの生活が二重写しになる──これは、戦争と日常の危ういはざまにいる私たちの現状そのものではなかろうか。
沼野恭子(東京外国語大学教授・ロシア文学)
社会で大きな出来事が起こっているさなか、ただ傍観せざるを得ないときの焦りや孤独。なにが正解なのか、そもそも正解はあるのか。主演のアナスタシア・ブジャシキナに圧倒される。俳優ではないのに。俳優ではないから?
速水螺旋人(漫画家)
ウクライナ・ナショナリズムの目覚めの原点であるユーロマイダン革命をめぐる人間ドラマ。深く、重い内容だが、現在のウクライナ問題に繋がる重要な論点を多々提供してくれる。ウクライナ理解に必須の、世界が向き合うべき問題作。
廣瀬陽子(慶應義塾大学 総合政策学部 教授)
政治的暴力の中心からどれだけ離れても、突然放り込まれた切実さから逃れることはできない。どれだけ彼女の近くにいても、切実さの外側から選択の重みを共にすることはできない。私はオルガを見た。そして私たちの姿も見た。
望月優大(ライター)
90分という長さの中に、ストイックな青春を貫く若者の意志と戸惑い、そして友情、さらには母への想いを盛り込み、結果として見事な現代史の記録となっている。長編第1作という事実に驚くしかない。
矢田部吉彦(前東京国際映画祭ディレクター)
オルガの翼
2022年9月3日(土)渋谷ユーロスペースほか全国順次公開
監督:エリ・グラップ
出演:アナスタシア・ブジャシキナ/サブリナ・ルフツォワ
2021年/フランス=スイス=ウクライナ/ウクライナ語・ロシア語・仏語・独語・伊語・英語/カラー/90分
日本版字幕:額賀深雪 字幕監修:梶山祐治
提供:パンドラ+キングレコード 配給:パンドラ
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