巡回上映「現代アートハウス入門 ドキュメンタリーの誘惑」が10月22日(土)より東京・ユーロスペースにて開幕。初日はゲストに甫木元空(映画監督/Bialystocks)と須藤健太郎(映画批評家)を迎えてトークイベントが行われた。

「アートハウス」に新しい観客を呼び込むため、コロナ禍真っ只中の2021年1月からはじまった「現代アートハウス入門」。その第3弾となる企画、巡回上映「現代アートハウス入門 ドキュメンタリーの誘惑」は“ドキュメンタリーと呼ばれる方法で作られた映画”にフォーカスをあてた企画。18名の気鋭の映画作家に「映画の魅力を伝えるために5本の“ドキュメンタリー映画”を観せるとしたら?」というアンケートをとり、そこであがった作品群から選りすぐりの7作品を上映する企画となっている。
初日の上映作品は、ダニエル・シュミット監督による『書かれた顔』(1995/スイス・日本)。今回は4K レストア版での日本初上映。歌舞伎界で当代一の人気を誇る女形・坂東玉三郎を主人公に、「鷺娘」「積恋雪関扉」といった舞台や、芸者に扮した彼を 2 人の男が奪い合う劇「黄昏芸者情話」が挿入され、玉三郎の秘密へと観る者を誘う。

須藤健太郎は、「日本で『ダニエル・シュミット映画祭』が開催されたのが 1982 年、ここユーロスペースの開館も1982年。日本でミニシアターが生まれ、映画文化が成熟していった時を象徴する映画作家がダニエル・シュミットであり、10 年以上かけて養われた日本とダニエル・シュミットとの関係の成果として、1995 年にこの『書かれた顔』がユーロスペースの製作で撮られた。それが今、4K にレストアされ、今年の8月にロカルノ国際映画祭でワールドプレミア上映されたばかりのものが、日本で初めて上映される場に立ち会えたのはすごく光栄なこと」として、あらためて「『書かれた顔』は、日本のミニシアター文化にとって非常に重要な作品」と位置づけた。
本企画のアンケートで『書かれた顔』をセレクトした一人、甫木元空監督はこの映画との出会いについて、「僕は大学に入るまでは『金曜ロードショー』くらいでしか映画を観たことがなかったんですが、多摩美術大学の映像演劇学科に入って、授業で最初に観たのがこの『書かれた顔』でした。それも映画全編ではなく、現代舞踏家の大野一雄さんが踊るシーンの抜粋だけを観せられて、『何なんだ? これがどんな風に入っている映画なんだ?!』と。でもそれが僕の映画体験のはじまりと言うか、『何かを物語るだけが映画じゃない』ってことを、映画を勉強していく初めの頃に知ることができて、すごくよかったと感じる」と振り返り、改めてスクリーンで観た感想を「映画全体がひとつの“踊り”のようにも感じられる、“一筆書き”のような登場人物たちの所作、動きに魅せられた。観るのは今日で4、5回目だが、毎回見るたびに違うものを手に取らされている感覚がある。同じ映画が上映されるんだけど、その時々の環境や一緒に見る人によって変わるのも映画の面白さ」と語った。

最後、アートハウスで映画を観ることについて、甫木元監督は「映画ってこういうもんだってのをより実験的に遊んでいるもの、可能性を模索できるものがドキュメンタリーなんじゃないかなと、今日『書かれた顔』を観て思った。そしてこれを見ず知らずの人たちと一緒に暗闇の中で一つのスクリーンを眺めるということ自体がすごい体験だと感じた」と語り、須藤さんは「今では DVD や配信などいろんな映画の見方があるけれど、ある出来事に立ち会うことの重要性というのは今でもあって、映画館で観るということは、ただ映画を観るというだけではなくて、何か大きな出来事に立ち会っているということなんだと思う」とトークを締めた。
「現代アートハウス入門 ドキュメンタリーの誘惑」は東京・ユーロスペースにて開催中。
現代アートハウス入門 ドキュメンタリーの誘惑
2022年10月22日(土)より[東京]ユーロスペースにて開催 ほか
[愛知]名古屋シネマテーク 11/12(土)〜、[大阪]シネ・ヌーヴォ 11/3(木)〜/[京都]京都シネマ 11/11(金)〜/[鳥取]ジグシアター 12/3(土)〜
企画・運営:東風 企画協力:ユーロスペース
技術協力・予告篇制作:restafilms
WEB制作:坂元純(月光堂)
デザイン:loneliness books
文化庁「ARTS for the future! 2」補助対象事業
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