巨匠ロマン・ポランスキー監督が19世紀のフランスで起きた歴史的冤罪事件“ドレフュス事件”を映画化した『オフィサー・アンド・スパイ』がいよいよ6月3日(金)より全国公開。このたび、現在88歳のロマン・ポランスキー監督のインタビューが到着した。
『ローズマリーの赤ちゃん』、『チャイナタウン』『戦場のピアニスト』など数々の名作を世に残してきたロマン・ポランスキー監督は現在88歳。クリント・イーストウッド(92歳)、リドリー・スコット(84歳)らOver80の監督たちと並び、今なお現役で活躍する巨匠の一人だ。
そして、その人生も、映画さながらに壮絶なことで知られる。ユダヤ人として強制収容所で親を失い、自身も逃亡生活を送り、監督として人気絶頂の69年、当時妊娠中だった妻で女優のシャロン・テートがマンソン・ファミリーに殺害される(クエンティン・タランティーノ監督『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』でこの事件が再びスポットを浴びたのも記憶に新しい)。
さらに、77年に少女への淫行でアメリカの裁判所から有罪判決を受け、仮釈放中にヨーロッパへ脱出。その後も複数の女性が性的被害を受けたと名乗り出て、今もアメリカ当局はポランスキーの身柄引き渡しを求めている。
そうしたポランスキーの過去が再び物議を醸すなかフランスで公開された本作は、観客動員100万人を超える大ヒットを記録。セザール賞では12ノミネート、3部門受賞(監督賞、脚色賞、衣装デザイン賞)を果たした。映画のテーマ性やクオリティの高さが絶賛される一方、授賞式では著名女優アデル・エネルらが抗議のため退場する一幕もあり、「作者自身と、作品は切り分けられるのか?」論争を巻き起こした大問題作でもある。
今回到着したインタビューでは、ポランスキー監督が本作の始まりやキャスティングなどについて明かしている。
——ドレフュス事件を映画化したいと思ったきっかけは?
大事件を元にした優れた映画は多くありますが、ドレフュス事件は傑出した物語性があると思います。“冤罪をかけられた男”というのは話として魅力がありますし、反ユダヤの動きが活発化している現代にも通じる問題です。まだ若かった頃、エミール・ゾラの半生を描いたアメリカ映画でドレフュス大尉が失脚するシーンを見て、打ち震えました。その時、いつかこの忌まわしい事件を映画化すると自分に言い聞かせました。
——このテーマを映画化するといったときの周囲の反応は?
ドレフュス事件について取り上げるというと、誰もが好意的な反応でした。しかし、実際にどんな事件なのか知っている人は、少ないことが分かってきました。実体が知られないままに、みんなが知っていると思ってしまっている歴史上の出来事のひとつです。
(制作については)7年前に企画を話した時、アメリカの支援を受けるには英語での制作が必須と言われました。でも、フランスの軍人たちが揃って英語を話す姿は想像できません。リアルさを再現するためにフランス語でこの映画を作りたかったんです。それから、2018年にプロデューサーからフランス語での制作を打診され、ついに撮影をスタートすることができました。
——キャスティングについて
ジャン・デュジャルダンは対敵情報活動を率いるジョルジュ・ピカール役にぴったりだと思いました。ピカールにそっくりだし、年齢も同じで、素晴らしい俳優です。映画にはスターが必要で、アカデミー俳優のデュジャルダンは適任です。彼を選んだのは当然の流れで、彼は喜んで引き受けてくれました。
ピカールは自分の信念に従い、軍の考えに服従するより真実を知ること選びました。ドレフュスがスパイとされたことに疑念を持ち、ピカールは軍の制止を振り切り捜査を続け、真犯人を示す証拠を見つけるのですが、核心に迫るほど、軍の過ちがもたらした問題の渦中に自分がいることを畏れるようになります。
——反ユダヤ感情は消滅したのではなく、変容し、別の顔を持ち現在も続いています。今日における新しいドレフュス事件は起こりえると思いますか?
現代のテクノロジーでは筆跡鑑定の不備で有罪になるようなケースはありえないでしょう。昔は軍隊が無限の権力を持っていましたが、もはや神聖な存在なんてありえません。今日の私たちは軍隊を含め全てに対して批判することを許されています。しかし、別の事件が起こる可能性は十分あります。冤罪、ひどい裁判、腐敗した裁判官、そして、ソーシャルメディア。事件が起こりうる要素はすでに揃っています。
——この映画について。
私にとってこの映画はスリラーです。ピカールの主観的な視点で語られている。観客は彼とともに捜査を進めている感覚になります。また、重要な出来事やセリフの多くは、当時の記録から事実を忠実に描いています。
——この映画はあなたにとってカタルシスのようなものだったのでしょうか。
いや、そんなことはありません。私の作品はセラピーではないです。ただこの映画で描かれている迫害の多くを知っているのは認めざるを得ないし、それが僕を奮い立たせたのは事実です。
ポランスキーの最高傑作にして最大の問題作『オフィサー・アンド・スパイ』は6月3日(金)TOHOシネマズ シャンテ他 全国公開。
オフィサー・アンド・スパイ
2022年6月3日(金)TOHOシネマズ シャンテ他 全国公開
STORY
1894年、フランス。ユダヤ系の陸軍大尉ドレフュスが、ドイツに軍事機密を流したスパイ容疑で終身刑を宣告される。ところが対敵情報活動を率いるピカール中佐は、ドレフュスの無実を示す衝撃的な証拠を発見。上官に対処を迫るが、国家的なスキャンダルを恐れ、隠蔽をもくろむ上層部に左遷を命じられてしまう。全て失っても尚、ドレフュスの再審を願うピカールは己の信念に従い、作家のゾラらに支援を求める。しかし、行く手には腐敗した権力や反ユダヤ勢力との過酷な闘いが待ち受けていた……。
監督:ロマン・ポランスキー 脚本:ロバート・ハリス、ロマン・ポランスキー 原作:ロバート・ハリス「An Officer and a Spy」
出演:ジャン・デュジャルダン、ルイ・ガレル、エマニュエル・セニエ、グレゴリー・ガドゥボワ、メルヴィル・プポー、マチュー・アマルリック他
2019年/フランス・イタリア/仏語/131分/4K 1.85ビスタ/カラー/5.1ch/原題:J’accuse/日本語字幕:丸山垂穂 字幕監修:内田樹
提供:アスミック・エース、ニューセレクト、ロングライド
配給:ロングライド
©️ Guy Ferrandis-Tous droits réservés
©️ 2019-LÉGENDAIRE-R.P.PRODUCTIONS-GAUMONT-FRANCE2CINÉMA-FRANCE3CINÉMA-ELISEO CINÉMA-RAICINÉMA
公式サイト longride.jp/officer-spy/
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