映画配信サービス「JAIHO(ジャイホー)」での『アッテンバーグ』の配信を記念して、本作で監督を務めたギリシャ映画界の奇才アティナ・ラヒル・ツァンガリ監督の特別インタビューが解禁された。個性的なキャラクターや唯⼀無⼆の世界観を⽣み出す裏側に迫る貴重なインタビューとなっている。
『アッテンバーグ』は『ロブスター』『⼥王陛下のお気に⼊り』などの⻤才ヨルゴス・ランティモスが製作・出演し、“ギリシャの奇妙な波(Greek Weird Wave)”と呼ばれるムーブメントを代表する1作。23歳のマリーナ(アリアン・ラベド)は、海岸沿いの⼯場の町で建築家の⽗と暮らしている。男性経験の無いマリーナは、経験豊富な親友ベラとキスの練習や性に関する相談を重ね、若いエンジニア(ヨルゴス・ランティモス)相⼿に実践を試みる…。主演のラベドは本作で共演したランティモスと2013年に結婚した。
監督は第59回ロンドン映画祭最優秀作品賞を受賞した『ストロングマン』(15)のアティナ・ラヒル・ツァンガリ。今回のインタビューでは本作の着想やギリシャの映画界について語った。
アティナ・ラヒル・ツァンガリ監督のインタビュー
Q. 主⼈公・マリーナのキャラクターはどこから着想を得ましたか?
この作品は、私がギリシャで撮った最初の映画です。⾃分⾃⾝の⾔葉で映画を作れるかどうか、作れるとしたらどんなものなのか、それを考えるのに何年もかかりました。⻑くアメリカで過ごしたため、⾃分をギリシャの映画監督としてとらえるのはとても難しく、ギリシャ語で書くことも難しい。だから、⾃分の周辺の環境にも社会にも属さない少⼥の物語にしました。
Q. マリーナとベラの動物的な要素について教えてください。
動物学者のデイビッド・アッテンボローの映像をたくさん⾒ました。キャラクターを動物のように育てることが重要だったからです。俳優達にはそれぞれ好きな映像や動物があり、それは彼らが演技をしているときの記憶でもあります。私はアッテンボローの熱烈なファンで、⼦どもの頃から彼の映像を⾒続けてきました。とても優雅で、⾃然や被写体に対する優しさを持っていて、映画におけるキャラクターへのアプローチ⽅法について、私にとって⼤きなお⼿本となっています。
Q. 冒頭のキスシーンやマリーナとベラの関係が衝撃的ですが、どのような意図がありましたか?
冒頭のシーンはただのキスであってレズビアンのシーンではないので、余計に物議を醸すのだと思います。2⼈の⼥性が⼀緒に居たり、愛し合ったり、⾃⾝の性的指向に気付いたりするシーンではありません。ある少⼥が別の少⼥に、基本的な物事を教えるという内容です。それは、ギリシャでは⾮常に稀な、同じ⽬線に⽴って対等であろうとする⽗と娘の関係のようなものです。彼⼥は⽗親とはとても親密な関係ですが、ベラとは⾮常に敵対的な関係にあります。
Q. 恐怖や緊張の不安な気持ちがうまく表現されている、マリーナとエンジニアのラブシーンについて教えてください。
マリーナは、異国のものについて探りながら、ひたすらしゃべり続けるというアイデアが良いと思いました。役者への演出という点だけでなく、皆友達で仲間意識が強かったのがとても良かったですね。その親密さが光っていたと思います。あのシーンはぎこちなく⾒えないように、あまりリハーサルをしませんでした。また、私がしばらく前から考えていることなのですが、私より若い世代の⼥の⼦たちはセクシュアリティに夢中で、⾃分の体について何の恐れも持っていないのです。
Q. マリーナと⽗親の相性の良さと早⼝でまくしたてるような話し⽅が特徴的ですが、全て台本通りでしょうか?
台詞については、ほとんどが台本通りでした。台詞はもちろんボディランゲージも含めて綿密にリハーサルを⾏いました。私はハワード・ホークスと彼の監督作『ヒズ・ガール・フライデー』(40)のようなスクリューボール・コメディに強いこだわりを持っていて、センチメンタリズムや⾃然主義的なメロドラマはあまり好みません。この作品では、全員が誰かと交渉しなくてはならず、触媒として働く第三者も必要で、それは⾮常に重要なことでした。感情と距離の関係をどのように調節すれば、突⾶でもなく芸術的でもなく、ラブコメ映画のようにならないか、⾃分の⾔葉を徐々に発展させていこうとしているところです。
Q. 監督はギリシャで⾃⾝の制作会社を設⽴し、『籠の中の⼄⼥』(09)の製作にも携わっておりギリシャの映画界に活気を吹き込んでいますね。
ギリシャの映画界が活気づいているのは既に起こっていることで、私は数年続いている状況のなかの⼀部でしかありません。ギリシャで初めて製作した映画は、ヨルゴス・ランティモスの初の⻑編映画『Kinetta』(05)でした。⾃由で独⽴した感覚を味わえるので、私は⾃分の作品をプロデュースするのが好きです。『籠の中の⼄⼥』と『アッテンバーグ』には共通点があるという⼈もいますが、私はそうは思いません。しかしヨルゴスと私は親類関係のようなもので、⻑い間ともに議論し仕事をしてきました。
Q. ⾮常にモダニズム的な雰囲気を持っている『籠の中の⼄⼥』と『アッテンバーグ』のロケーションについて教えてください。
私が⽣まれ育った町へ戻り、撮影をしました。そこは60年代に建設された企業城下町で、70年代には多くの若いエンジニアが移り住み、その家族がこのモダニズムのユートピアに住んでいました。フランスの巨⼤コングロマリットに属する会社だったことも起因して、住⺠は半分がギリシャ⼈で半分がフランス⼈でした。私たちはその地を離れることになりましたが、私と妹は夏になると何度も⾜を運びました。なので、マリーナがディスコで男の⼦に夢中になるように、性に⽬覚める場所というイメージを持っていたのです。
Q. ある意味、とても美しい町だと思いました。⽗親とのシーンでマリーナが「画⼀的なものはとても落ち着く」と⾔うシーンがありますね。
とても美しいんです。町はとても活気があり、幸せで、スポーツや芸術が盛んだったと記憶しています。そんな⽂化的な環境でした。冬にクルーと⼀緒に戻ると、ゴーストタウンのような雰囲気があり、それがとても私に合っていました。20世紀の失敗についての⽗親の認識と⼀致していました。しかし、私たちスタッフにとって、この何もない画⼀的な町、⽩いブロックばかりの町での撮影は、とても不思議なものでした。まるで⽉のような、地球外にある町のようで、伝統的な美しさがないのです。
『アッテンバーグ』(2010年/ギリシャ)
11⽉14⽇(⽉)まで配信中 ※プレミア作品(⽇本未公開作) ※60⽇間配信
『アルプス』(11)【11/15まで配信中】、『ロブスター』(15)、『⼥王陛下のお気に⼊り』(18)の⻤才ヨルゴス・ランティモスが製作・出演し、“ギリシャの奇妙な波(Greek Weird Wave)”と呼ばれるムーブメントを代表する1作。監督は第59回ロンドン映画祭最優秀作品賞を受賞した『ストロングマン』(15)のアティナ・ラヒル・ツァンガリ。ツァンガリはランティモスの『籠の中の⼄⼥』(09)、『アルプス』の製作も務めている。第67回ベネチア国際映画祭でプレミア上映され、本作で⻑編映画デビューしたアリアン・ラベドが最優秀⼥優賞を受賞するなど⾼く評価され、第84回アカデミー賞外国語映画賞ギリシャ代表にも選ばれた。主演のラベドは本作で共演したランティモスと2013年に結婚した。なお、『アッテンバーグ』は12/9(⾦)〜12/18(⽇)で実施予定のシネマ映画.com×JAIHOのコラボ企画「JAIHOセレクション」でも配信予定。
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