ほぼ全編が犬目線で撮影されたドキュメンタリー映画『ストレイ 犬が見た世界』(3月18日公開)の約3分間に及ぶ冒頭映像が解禁された。犬の目線と同じローアングルで撮影され、ごく普通の街の風景さえも新鮮に見えてくる驚きの映像だ。

本作は殺処分ゼロの国トルコ・イスタンブールの街で暮らす野良犬たちに密着し、犬目線のカメラで世界を覗きながら、動物と人間の関係性を新たな視点でとらえたドキュメンタリー。舞台となるトルコは、世界でも珍しいほど犬との歴史と関係を持つ国。過去への反省から、殺処分や野良犬の捕獲が違法とされている国のひとつであり、動物愛護に関する国民の意識も非常に高い。2017 年に、そんなトルコを旅した自身も愛犬家のエリザベス・ロー監督は、主人公となる犬ゼイティンと偶然に出逢い、「何か目的を持っているところに惹かれ追いかけた」と言う。犬たちが自由に街を歩き、人間との共存社会を築いていることに導かれ、彼らに密着し犬目線のカメラで追い続けたその世界は、信頼と愛に満ちていた――。
今回解禁された冒頭映像からは、野良犬を見かけることがなくなった日本の私たちから見ると、素直に驚いてしまうシーンが立て続けに目に飛び込んでくる。
ローアングルのカメラが捉えるのは、トルコ・イスタンブールの街中で交通量の多い車道の路肩にたたずみ何かを見つめている主人公の犬ゼイティンの後ろ姿。続いて、ボスポラス海峡の砂浜で寝ている犬や海を眺めている人間たちのすぐ傍でじゃれている犬。
さらに、遺跡、歩道、公園などあちこちを自由に闊歩し、縦横無尽に駆け回る犬たちを映し出す。彼らは人間社会とは絶妙な距離を保ちつつ、外で生きている。カメラは、犬たちの表情や足取り、コミュニケーションをつぶさにとらえており、私たち観客は彼らの感情や表情におのずと引き込まれていく。

そして、冒頭の車道の路肩でたたずんでいたゼイティンが見つめていた、多くの車が行き交う橋とイスタンブールの街が映し出されるところで冒頭映像は終わる。抒情的な映像に引き込まれ、犬たちは何を考え、何を見つめているのか、続きが気になるプロローグだ。
「トルコ当局は 1909 年から野犬の駆除に乗り出しイスタンブールで大量殺害を招いた。抗議の声が広がった結果、現在のトルコは野犬の安楽死や捕獲を違法とする希少な国となった」という本編内のテロップからも分かるように、トルコは動物保護に熱心な国だ。本作でも、イスタンブールが犬たちに優しい特別な街であることが描かれており、2016 年に公開された『猫が教えてくれたこと』の犬版とも言える内容になっている。

ペットではない、外で生きる犬たちを尊重し共存する寛容なコミュニティの在り方が、この映画から見えてくるはずだ。本作ではいつもとは違う、犬たちの視点で世界を見渡すことができる。
ちなみにトルコでは 2004 年から「動物保護法」が施行され、自治体は、路上で生きる犬や猫に必要な治療や避妊・去勢手術、ワクチン接種を施し、元いた路上に戻すという保護を義務付けられている。さらに 2021 年 7 月には「動物の権利法(Animal Rights Law)」が可決され、動物たちは「生きている存在」として「権利」を持つようになり、犬猫への虐待は犯罪として扱われる。

動物と人間の関係性を新たな視点でとらえ、北米を代表するドキュメンタリー映画祭のひとつ、Hot Docs カナダ国際ドキュメンタリー映画祭で最優秀国際ドキュメンタリー賞を受賞、またアメリカの批評サイト・ロッテントマトでも 96%フレッシュ(2022.3.11 現在)という数字をたたき出した本作。犬と人間の絆が感動を呼ぶドキュメンタリーだ。
『ストレイ 犬が見た世界』は3月18日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開。
ストレイ 犬が見た世界
2022年3月18日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開
監督:エリザベス・ロー
出演:ゼイティン、ナザール、カルタル(犬たち)ほか
2020年/アメリカ / トルコ語・英語 / 72分 / ビスタ / カラー / PG-12
日本語字幕:岩辺いずみ
原題:STRAY
配給:トランスフォーマー
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