映画音楽の巨匠、故・エンニオ・モリコーネの葛藤と栄光に迫る音楽ドキュメンタリー映画『モリコーネ 映画が恋した⾳楽家』(2023年1月13日公開)の特別上映&スペシャルトークショーが第35回東京国際映画祭にて10⽉30⽇(⽇)に行われ、今期の NHK 連続テレビ⼩説「舞いあがれ!」をはじめ、『噓⼋百』シリーズや『検察側の罪⼈』『そして、バトンは渡された』など数々の映画⾳楽を⼿掛けている富貴晴美と、本作の字幕監修を担当しているサウンド&ビジュアルライターの前島秀国が登壇した。

「こんな⼤巨匠になっても同じことをやっているんだなって、思わず笑ってしまった」

2020年7⽉、世界は類稀なる存在を失った。エンニオ・モリコーネ、享年91歳。500作品以上の映画とTVの⾳楽を⼿掛けた。アカデミー賞®には6度ノミネートされ『ヘイトフル・エイト』で受賞、全功績を称える名誉賞にも輝いた。『モリコーネ 映画が恋した⾳楽家』は、そんな伝説のマエストロに、弟⼦であり友でもあるジュゼッペ・トルナトーレ監督(『ニュー・シネマ・パラダイス』)が密着、結果的に⽣前の姿を捉える最後の作品となったドキュメンタリー映画。

『モリコーネ 映画が恋した⾳楽家』

現在放映中の連続テレビ⼩説「舞い上がれ!」のほか、ヒットシリーズの劇場映画『嘘⼋百 なにわ夢の陣』(2023年1月6日公開)を担当するなど、モリコーネと同じく、テレビや映画で⼤活躍中であり、過去、NHK の⼤河ドラマの⾳楽を担当したという共通点もある富貴晴美(「⻄郷どん」)は本作について「素晴らしすぎてトルナトーレ監督の最⾼傑作になっているんじゃないか。ドキュメンタリーって⾊々あると思うんですけど、ここまで素晴らしい、⼀体どれだけのフィルムを回したんだろうっていう⾵に思いました。映画としても素晴らしいので、もう多くの⼈に観ていただきたいなと思います」と⼤絶賛する。

⾃⾝のモリコーネとの出会いが「⼩学⽣の時に観た『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』(84)」だったと⾔う富貴は「『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』を聴いて映画⾳楽の作曲家になろうと思ったっていう⼈がたくさんいるはず」という前島の意⾒にも賛同し、同作劇中に流れる「デボラのテーマ」を例に挙げ「映画を1本観終わったら“その世界”にしかいなかった⾃分が“あの世界”にいるような感じがして、すぐさまピアノでそのメロディーをずっと弾いて、それが最初の出会いでしたね。永遠にモリコーネの珠⽟の1曲みたいに、本当に思います」と振り返る。

続いて、⾃⾝の「好きな作品であり、⼀番モリコーネらしい作品」という『ミッション』について「聞いてるとドキドキしますし、モリコーネ自身が代表作っていうか、⾃信があるって⾔ってるのもすごく頷ける作品だなって」と明かす。

同作は、ルネサンスからバロックにかけての⾳楽と現代⾳楽の前衛的なかけ離れた⾳楽2つが融合した楽曲が特徴的だが、「前衛的な⾳楽、現代⾳楽になると、乾いた⾳楽が多くて、メロディックではない」としつつ、「モリコーネさんは、前衛的なものと豊かなメロディー、彼しか書けないメロディーが異質に感じないというか、それがすごい組み合わさっている。現代⾳楽だけで⾔うと“泣ける”とか“⼼に沁みる”とか、映画⾳楽でもいろんな作曲家がそういう⾵にやっていると思うんですけれど、そこの域まで達してない。だからエンニオ・モリコーネという⼈が素晴らしいと⾔われてるのは、⾼次元のところで融合してるだけでなく、そこからその⾳楽を聞いて、涙が出る。あったかい気持ちになるっていう、⼼に訴えかけるメロディーを書ける。そこが素晴らしいと思いますね」とその魅⼒を熱く語る。

前島も「今の⾔い⽅で⾔うと“エモい”、つまり“エモーショナル”な部分っていうのを、絶対に忘れてない」と、⼀⾒⽭盾したこの2つの要素を映画⾳楽の中で 1 つにしてしまうモリコーネの凄さを解説した。

劇中でのモリコーネの、ドラマや映画などの商業的な⾳楽と、芸術的な⾳楽を書くときの葛藤についてのシーンも共感したという富貴。「ドラマとか映画の⾳楽を作る時の頭と、現代⾳楽を書く時の頭って、全然違う⾵に考えて、頭を切り替えて作曲している。モリコーネさんは同じ舞台の上に2つをうまく組み合わせてるっていうのは、すごい! 真似したいけど、なかなか難しいなと思う」と感嘆し、「多分、最後まで彼はずっと葛藤し続けていたんだろうな、っていうのはわかる」と同じ作曲家としての苦悩を重ね合わせる。

そして、動物の鳴き声を作曲の⼀部として採⽤するという、現代⾳楽があったからこそ⽣まれたモリコーネ独特の表現である『続・⼣陽のガンマン』での有名な「コヨーテの遠吠え」などを例をあげ「現代⾳楽があるから、彼はいろんなところの引き出しが増えて、それで彼の世界が出来上がってるっていう⾵に思ってます。映画⾳楽も現代⾳楽が彼から無かったとしたら、もしかしたら、映画⾳楽作曲家として、そこまで⼤成していなかったかもしれない、っていう⾵に私は思っていて。やっぱり2つの要素、2つの顔を持つことで、新しいステージに⾏けたんじゃないかなという⾵に思っています」と分析した。

富貴⾃⾝が NHK ⼤河ドラマ「⻄郷どん」(18)で作曲を担当していたという縁もあり、モリコーネが⾳楽を⼿がけた NHK ⼤河ドラマ「武蔵 MUSASHI」(03)にも⾔及。「彼の全てが詰まっているようなサウンドトラックだなと思っています」と⾔い、前島も「メインテーマもね。トランペットで主題を出して、トランペットはもう、そういう意味でも今⽇の映画をご覧になってわかるように、モリコーネの1番得意な楽器ですよね。ここぞっていう時に使う。ある意味で⻄洋のヒーロードラマと全く同じスタンスで、すごかった」と振り返った。

劇中「作曲したら、まず奥さんに曲を聞かせる。お⽗さんや恩師から受けた教えとか愛情とか、そういうものを⾮常に⼤切にして⽣きてる」など、溢れ出るモリコーネの温かい⼈柄のシーンの話題にも触れながら、富貴が“同じ作曲家として思わず笑ってしまった”シーンとして、モリコーネが『アンタッチャブル』(87)の作曲リストをブライアン・デ・パルマ監督に提案した際、絶対に採⽤して欲しく無いが“⼀応の候補”としてリストの最後に⼊れておいた楽曲が採⽤されてしまい、ショックを受けた、と明かす箇所に⾔及。

富貴⾃⾝も「デモで6曲を書いて(⼀応⾯⽩いからリストに⼊れるけど)『最後の 6 番⽬を採⽤するのはやめてね』って⾔ったのになぜか 6 番⽬が採⽤されてしまう」と“作曲家あるある”を明かし、「こんな⼤巨匠になっても同じことをやっているんだなって、思わず笑ってしまった」と⾔い、前島も「洋の東⻄、この業界は同じということですね」と笑った。

最後、トークに聞き⼊っていた満席の客席に向かって、富貴の「本当に傑作だと思っていて、映画⾳楽仲間だけじゃなく、⼀般の⼈たちにいっぱい宣伝したいなと思うので、ぜひ皆さんもいっぱい宣伝してください」という熱い⾔葉でイベントは締めくくられた。

『モリコーネ 映画が恋した⾳楽家』は2023年1月13日(金)TOHO シネマズ シャンテ、Bunkamura ル・シネマほか全国順次ロードショー。

作品情報

モリコーネ 映画が恋した⾳楽家
2023年1月13日(金)TOHO シネマズ シャンテ、Bunkamura ル・シネマほか全国順次ロードショー

監督:ジュゼッペ・トルナトーレ『ニュー・シネマ・パラダイス』『海の上のピアニスト』
原題:Ennio/157 分/イタリア/カラー/シネスコ/5.1ch デジタル/字幕翻訳:松浦美奈 字幕監修:前島秀国
出演:エンニオ・モリコーネ、クリント・イーストウッドクエンティン・タランティーノほか

©2021 Piano b produzioni, gaga, potemkino, terras

公式サイト https://gaga.ne.jp/ennio/

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